トマト在住の青年による執筆活動

短編の小説を書いていきます。不定期・自己ベスト更新です。たまーに自分勝手な記事も書きます。

衝動的掌編№1 ダイイング・メッセージ

 「どうして万引きなんてしたんだ?」
 「・・・。」
 机を挟み、目の前のパイプ椅子に座る少女は、私の問いに俯きながら押し黙
っていた。机の上には、小さな梅ガムが一つ、ころんと転がっている。
 「どうして、ガムだけ万引きしたんだ。他の商品は、ちゃんと会計してるじ
ゃないか。」
 私は彼女が持っていたレシートを見た。卵ボーロ、スルメイカのおつまみ、
蛍光ペン、手鏡。細いがしっかりとした印字で商品名が書かれている中、そこ
に梅ガムの文字はなかった。
 「お金、持っているんだろう?ちゃんと払えば、こうやって引き留められる
こともなかったぞ。」
 「お財布の中を見たら、ガムの分だけ無かったの。」
 少女のか細い声が、殺風景な事務所に響いた。
 「だからって、万引きしていい理由にはならないんだよ。」
 私は出来るだけ、優しい声になるよう気をつけながら、少女を諭した。
 「ごめんなさい。」
 少女の声は、更にか細くなって、今にも消え入りそうだった。
 「ちゃんと今日のことは、しっかり反省しなさい。」
 
 ガチャン。
  
 「店長。警察の方、到着しましたけど、事務所に入ってもらっていいです
か?」
 「ああ、そのことなんだけど、帰ってもらって。」
 「え?」
 「俺の勘違いだった。この女の子、たまたま服が引っかかって、鞄の中に入
れちゃっただけみたい。」
 「そ、そうなんですか?」
 「うん。防犯カメラ見直したから、間違いないよ。」
 「わかりました。じゃあそう伝えてきます。」
 
 ガチャン。

 「何か困ったことがあるなら、何でも私に言いなさい。きっと、力になって
あげられるから。」
 「・・・!ありがとうございます。今日は帰ります。おじさんのお陰で、ち
ょっとだけ、元気でたから・・・!」
 少女は顔を上げ、鼻をすすりながらも、はっきりと答えた。

 

 「警察の人に怒られちゃいましたよ~。店長、勘違いはもうしないでくださ
いね?」
 「わかってるよ。」
 私はうわの空で答えながら、少女の身を案じていた。事情は私にはわからな
い。けれど、私は少女が最後に出した、あの答えを信じたい。
 
 そう思いながら私は、縦読みで「たすけて」と読んだレシートを、自分の財
布にしまうのだった。