トマト在住の青年による執筆活動

短編の小説を書いていきます。不定期・自己ベスト更新です。たまーに自分勝手な記事も書きます。

短編№2 ロッカー番号二十番の神様⑩

「橋本ぉ。さっさと帰るぞー。」 「あ、ごめん石田。国語の宿題、教室に忘れてきたっ。取ってくるから、先に歩いてて。」 「わかった。早く来いよ。」 「ありがとう。」 頭をポリポリと掻きながら急かす石田に自然と礼をこぼし、橋本は小走りで校舎へと歩き…

衝動的掌編№1 ダイイング・メッセージ

「どうして万引きなんてしたんだ?」 「・・・。」 机を挟み、目の前のパイプ椅子に座る少女は、私の問いに俯きながら押し黙っていた。机の上には、小さな梅ガムが一つ、ころんと転がっている。 「どうして、ガムだけ万引きしたんだ。他の商品は、ちゃんと会…

短編№2 ロッカー番号二十番の神様⑨

「四分五十五分!」 大山田の野太い声が、千秋の走破タイムを伝えた。 「水飲んできます。」相変わらず千秋のタイムを見てざわつく男子生徒をよそに、千秋は水道のあるグラウンドの隅へと歩き出した。 中々調子が出てこない。予選が近づく中、千秋は焦ってい…

短編№2 ッカー番号二十番の神様⑧

「よしっ!準備オッケー!!」 「駄目、もう少し真面目に準備体操してよ。怪我したら大変なんだから。」 「ごめんごめんっ!今日は宜しくね、千秋コーチ!」 「・・・まあ、程々に頑張ろ。」 いつものランニングウエアを着た松井と、放課後の校庭では浮いて見え…

短編№2 ロッカー番号二十番の神様⑦

「千秋ちゃーん!」 着替えを終えて更衣室を出ると、校舎の方から名前を呼ばれた。 あれ、彩花もまだ学校いたんだ。」 「今日は生徒会があったからね!」 千秋の元に駆け寄ってきた彩花は、親指をわざとらしく立てて決めポーズをとった。 「・・・彩花は毎日楽…

短編№2 ロッカー番号二十番の神様⑥

「倉本。二年と一年連れて先にトラック走ってて。周回数は任せる。それが終わったら自主練してて。」 「はいっ!」 松井に指示を出された二年生部員の倉本は、まるで将軍に命令されたかのように緊張がこもった短い返事をし、部員達をトラックへと先導してい…

短編№2 ロッカー番号二十番の神様⑤

固く結んだ筈の靴紐が解けてしまい、橋本は走るのを一旦止めた。車道から狭い歩道に入り、しゃがんで靴紐を結び直す。すぐ前を走っていた石田は、もうこの先に見える曲がり角を曲がり、見えなくなっている。橋本は立ち上がると太ともに檄を飛ばすようにパン…

短編№2 ロッカー番号二十番の神様④

手紙を持ち帰った夜、橋本は珍しく勉強机の前に座っていた。 すっかり読み飽きた漫画と表紙すら捲っていない参考書をどかし、机の上を綺麗にして、橋本は例の手紙と、一冊のノートを机に並べた。 まさか、本当に手紙を入れる者が現れるとは・・・。 趣味の悪い…

無機物の声を書いてみた!~三作目~

見覚えのある一人の男が、私の根元に立っていた。いつも連れて歩いている女は、その日はいなかった。 男はいつもより何やらめかし込んでいて、皺一つ無い上等そうなスーツを着ている。時折、右腕に付けたシルバーの時計に目をやっては、きょろきょろと周りを…

短編№2 ロッカー番号二十番の神様③

「橋本ぉ。帰るぞー。」 陸上部の部室から校舎へと戻ろうと歩き出した時、石田から声をかけられた。 「悪い石田。教室に忘れ物したからさ、昇降口で待っててくれる?」 「あー?何忘れたんだよ?」 「んっと、ノートだよ、数学のノート。宿題出てるからさ。…

短編№2 ロッカー番号二十番の神様②

「もう、なんで千秋ちゃんはすぐ喧嘩するかなぁー。程々にしとかないと体育の成績落ちるよー?」 「授業は毎回出てるから大丈夫でしょ。てか、水飲みに行くくらいでキレてんじゃねえよ禿げ山田の野郎。」 待ちに待った昼休み、千秋は購買で買ってきたメロン…

短編№2 ロッカー番号二十番の神様①

砂煙が舞うトラックの上を、千秋は全速力で走っていた。肺と心臓から聞こえる悲痛な叫びを無視して、スピードを落とさず、白いラインが描くカーブを曲がっていく。 「四分過ぎたぞー!」 ゴール横に仁王立ちする体育教師の大山田から、野太い声で檄が飛ぶ。 …

自費出版を真面目に語る

つい先程、某出版社から打診がありました自費出版のお話を、お断りしました。 担当して頂いた方。私の決断が遅くなってご迷惑をおかけしたこと、非常に反省しております。また、添削、出版に至るまでの説明など、丁寧に対応して頂き感謝をしています。 だが…

無機物の声を書いてみた!~二作目~

「いやよ常盤君。出て行っちゃいや!」 以前として紙くずの中に埋まっている常磐を、私は懸命に説得していた。 「ずっとここにいてよ常盤君!わざわざ外に出る必要なんか無いわ!」 「・・・俺だって、ここから出たいわけじゃないんだ。」 暫くの間、黙って私の…

無機物の声を書いてみた!~一作目~

「お疲れ様でーす!お仕事引き継ぎますねー!」 長い長い勤務時間に終わりを告げに、掃除機が俺の前に背中を向けて置かれた。 「来るのが遅ーよ・・・。もうちょっと早く来いよ。過労で倒れちまう。」 「そう言われましてもねー・・・。僕も忙しいんで・・・。」 俺か…

無機物の声を書いてみた!~ただの説明文~

長編小説、全然進まない・・・(泣) 何なんでしょうね、話の細かい設定とか決めて、いざ書き進めて行くときに心から湧き出る、”これじゃない感”は。 かといって大して何も決めずに書いていくと躓くし、やっぱり小説書くのって難しいですね。楽しいけど。 って…

短編№1 拝啓、白猫より⑥

気づけば、自殺をした山にいた。 なんでここに来たかはわからない。けれど、神様が母さんの住む家で溶けて無くなる僕を、流石に不憫に思って連れてきたのかもしれない。 雪はもう殆ど溶けて、今僕が座っている所しかなかった。 足下の雪がしゅわしゅわ溶けて…

短編№1 拝啓、白猫より⑤

僕が猫になってから、一ヶ月が経った。 相変わらず人間の言葉を喋ることは出来ない。母さんは人間だった頃の僕の葬儀を終えたものの、僕の遺品整理や親族への対応など、忙しい日々を送っていた。スーパーでの仕事も再開していたから、なおさら忙しいようだ。…

短編№1 拝啓、白猫より④

白猫になった僕は、その足で人間だった頃住んでいた家の前まで帰っていた。 まさか、猫の足ではここまで来るのに半日かかるとは思わなかった。ずっと休み無く歩き続けて、身体はくたくただ。コーラを飲んで、ベッドで横になりたい。けれど、いくら玄関の前で…

短編№1 拝啓、白猫より③

クロが死んでから一ヶ月が過ぎた。あれから何度か、自殺未遂をした。飛び降りをするためにマンションの屋上に立ったりもしたが、身体が躊躇してフラフラとしている間に人に見つかり、その時は無言で逃げ帰った。 季節は秋から、冬を迎えようとしている。風は…

短編№1 拝啓、白猫より②

さあ、まずは僕が人間だった頃の、一つの事件を書いてみようと思う。多分、あの事件を起こしたから、僕は神様に目をつけられて、こんな姿になったんだろうから。 夏はとっくに過ぎ、秋も半分くらい過ぎたあの日、僕はいつものように昼になるまでベッドの上で…

短編№1 拝啓、白猫より①

ブログ開設初日ですが、既に書き終えていたものを投稿しようと思います。最後までお付き合い頂けると幸いです。 6/23追記:見にくかったためいくつかに分けて投稿し直しました。 タイトル:拝啓、白猫より 「シロ、ご飯だよー。何処にいるのー?」 一階…

赤い海 ~自己紹介を添えて~

我々は食べられるために生まれてきたわけではない。種を、我々の子孫を残すために生まれてきたのだ。決して、鳥や狐、そして人間の食欲を満たすために生まれてきたのではない。 だが今、まさに我々は食欲を満たそうと食らいつく人間の、透明な胃酸の海へ落ち…