トマト在住の青年による執筆活動

短編の小説を書いていきます。不定期・自己ベスト更新です。たまーに自分勝手な記事も書きます。

短編№1 拝啓、白猫より①

  ブログ開設初日ですが、既に書き終えていたものを投稿しようと思います。最後までお付き合い頂けると幸いです。

 6/23追記:見にくかったためいくつかに分けて投稿し直しました。

 

 

 

 タイトル:拝啓、白猫より

 

 「シロ、ご飯だよー。何処にいるのー?」
 一階から僕を呼ぶ声がする。今日のご飯はなんだろうか。キャットフードだけは止めてほしい。あの固形物だけはどうも好きになれないのだ。だがまずは夕飯を食べる前に、この文章の書き出しだけでも終わらせておこう。

 僕が文字を書けるようになったのは、つい最近のことだ。

 何せこの頼りない前足ではしっかりと鉛筆を持つことが出来ない。それでも、抱え込むように鉛筆を前足で挟み、どうにか読めるくらいの文字を書けるようになった。

 けれど、ここまでこぎつけるのに二ヶ月も使ってしまった。

 年をまたぎ、季節はすっかり真冬だ。雪もあれよあれよという間に積もり、今や人の背丈を優に超えている。この積もりに積もった雪が中々溶けないのは僕もわかっているが、たまに雲の切れ間から太陽が覗くと、アイスのようにあっという間に溶け、土が姿を現すのでは無いかと焦りを覚える。そして、真っ白な城壁のように固く積まれた雪も、春になれば為す術無く崩れ落ちるのを、僕は何度も見ているのだ。
 

 なんとしても、春までに僕の生きた証拠を残しておきたかった。文章にしようと思ったのは、変わった境遇にあるであろう僕の体験を、誰かに伝えたかったからだ。僕の部屋で書いているのだから、あとで掃除の時にでも母が見つけて、息子の遺作だとか言って文壇に発表してくれたら最高だし、大切に仏壇の引き出しに入れてくれてもかまわない。

 とにかく母一人でも良いから、そして信じてくれなくても良いから、頭の隅に僕の話を覚えておいてほしい。母さん。人間の脳味噌は凄いんだよ。僕は今になって分かった。僕が今使っているのなんて豆粒みたいなもんだから、全然ものを覚えられないんだ。
 さて、この物語は勿論僕の実体験だけど、ちゃんと理解して貰うには少し時間を遡って、僕がどんな人間だったか書いておこうと思う。きっと、そこに僕がこんな姿になった理由がある筈だから。
 

 自己紹介が遅れたみたいだ。僕は祐介。元人間で、春になったら消えてしまう、真っ白 な猫だ。それじゃあ、また。