短編№2 ロッカー番号二十番の神様⑦
「千秋ちゃーん!」
着替えを終えて更衣室を出ると、校舎の方から名前を呼ばれた。
あれ、彩花もまだ学校いたんだ。」
「今日は生徒会があったからね!」
千秋の元に駆け寄ってきた彩花は、親指をわざとらしく立てて決めポーズをとった。
「・・・彩花は毎日楽しそうだね。」
「え!?そうかなー?でも、そうかもねー!!」
彩花の全く主語のない返事からも、楽しげな雰囲気が伝わってくる。
・・・私は今、アンタの話題でモヤモヤしてんのに。
千秋は少し苛立ちを覚えながらも、彩花と共に校門に向けて歩き出した。
すると校門へ続く道の端に、橋本が一人たたずんでいるのが見えた。
「あ、あの、松井さんっ・・・と、泉さん。」
千秋は呼びかけられても無視をして通り過ぎる気でいたのだが、橋本が彩花にまで声をかけたのは予想外だった。そんなに勇気のある奴だとは思っていなかったからだ。
「んー?何かね橋本君っ!」
彩花は妙に高いテンションのまま返事をした。殆ど話したことのない人でも対応が変わらないのは、彩花の凄いところだ。
「えっと、そのっ」
橋本はごにょごにょと何か言いたげだったが、緊張からか上手く喋れないようだった。
「・・・彩花。行こう。こいつ面倒くさいから。」
千秋はそう吐き捨てた。橋本が面倒というよりは、橋本が言おうとしていることが面倒なのだ。
千秋は彩花の袖口を引っ張った。けれど彩花はぴくりとも動かない。それどころか、懸命に足を踏ん張っている。
「千秋ちゃんっ!人の話は聞かないと駄目だよー!」
「・・・あ?」
つい反射的に千秋は、彩花を睨んだ。
すると彩花も、千秋の目を真っ直ぐ見て睨んだ。
・・・そうだ。彩花が人当たりがよく見えるのは、逃げないからなのか。
千秋がそんな感想を持ち、彩花を引っ張る手を緩めた時。
「一緒に三人で、走りませんか?」
橋本が弱々しい声で、提案した。