トマト在住の青年による執筆活動

短編の小説を書いていきます。不定期・自己ベスト更新です。たまーに自分勝手な記事も書きます。

無機物の声を書いてみた!~一作目~

 

 

    「お疲れ様でーす!お仕事引き継ぎますねー!」

 長い長い勤務時間に終わりを告げに、掃除機が俺の前に背中を向けて置かれた。

 「来るのが遅ーよ・・・。もうちょっと早く来いよ。過労で倒れちまう。」

 「そう言われましてもねー・・・。僕も忙しいんで・・・。」

 俺からの八つ当たりに、まだ若い光道は困り顔で答えた。

 「全然忙しくなんかねーだろ。お前が働いてるのなんて、一週間に一度くらいしか見ねーよ。」

 「いやいや、それは先輩からは見えない所で働いてるからですよ。僕は先輩と違って出張が多いんですから。」

 「ふん、俺なんてここ一年、一日も休みが無かったんだぞ。おまけに、朝から晩までフル稼働だ。自慢じゃないが、多分この家の誰よりも俺は働いてるはずだ。」

 光道と話しながらも俺は、身体から力が抜けていく喜びを噛みしめていた。この感触も一年ぶりだ。絶え間なく荷物を運ばなければならない俺たちにとって、仕事から離れていくこの瞬間は、張り詰めた緊張の紐が緩む心地よさに浸れる唯一の瞬間なのだ。

 やがて、ずぼっという音と共に俺の身体は職場から解放された。そして代わりに、光道がゆっくりと仕事に就く準備を始める。

 「うわ、何ですかこれ。先輩、埃が溜まってるじゃないですか!」

 休暇の心地よさと仕事の疲労感で深い眠りに落ちようとしていた俺を、光道の甲高い声が妨害してきた。

 「なんだよ・・・!埃なんていつも付いてんだろ。俺の休暇は短いんだから、黙って仕事しろ!」

 これには普段寡黙な俺も、声を荒げてしまった。何しろ、一年ごとにやって来るこの休暇は、せいぜい長くても一時間程で終わってしまうのだ。去年なんか、十分も立たずに仕事に戻る羽目になった。全く・・・、どうしてこう人間は、テレビという物から離れられないんだろうか。

 「埃なんて気にしてたら、そこで仕事は出来ねえぞ!」

 「で、でも先輩。この量は尋常じゃないですよ。下手したらこれ、荷物運ぶ時に引火するんじゃ・・・。」

 「気にしすぎだ光道。オーナーだって馬鹿じゃ無い。埃が見えたら取ってくれるだろ。」

 「でも、最近オーナーが変わったのか、掃除がかなり雑なんですよね・・。どうやら子供が掃除をしてるみたいで・・・。」

 「うるせえっ!餓鬼でも手足と頭が付いた人間だろ!さっさと仕事しやがれ!」

 「わかりましたよぉ・・・。」

 光道は渋々納得し、仕事へ向かって行った。

 ようやく、一人の時間を満喫出来る。あー、この冷たいフローリングの感触。仕事で火照った身体には染みるわー。このまま寝そうだな・・・。そうだな・・・少しの間、眠ろう・・・。

 

・・・ん?なんか背中のほうが暑いぞ・・・?

 

 気付いた時には、手遅れだった。光道が掃除機と共に、メラメラと赤い炎を上げていた。

 

 「光道、悪かった。俺がもっと注意していれば、こんなことには・・・。」

 火事が収まった後、俺たちは真っ黒なビニールケースに詰め込まれ、何処かへと運ばれているようだった。これが噂に聞く、スクラップというやつか。

 「いいんですよ、もう。先輩にも、どうしようも無かったことですし。オーナーが埃を取ってくれなかったのが悪いんです。」

 光道は全身に火傷を負い、自慢だった太い身体は、所々削れてしまっていた。

 「悪かった・・・。」

 「もう、謝らないでくださいよ・・・。」  

 光道はぼろぼろになってしまった身体を見ながら言った。

 「僕たちは、ただのコードですから。」

 

 

 はい、書いてみました一作目。答えはテレビと掃除機のコードでした。割と分かり易く書いてしまった気がする・・・。

 読んでくださった方、ありがとうございます!次回があれば、また。(笑)