トマト在住の青年による執筆活動

短編の小説を書いていきます。不定期・自己ベスト更新です。たまーに自分勝手な記事も書きます。

無機物の声を書いてみた!~二作目~

 「いやよ常盤君。出て行っちゃいや!」

 以前として紙くずの中に埋まっている常磐を、私は懸命に説得していた。

 「ずっとここにいてよ常盤君!わざわざ外に出る必要なんか無いわ!」

 「・・・俺だって、ここから出たいわけじゃないんだ。」

 暫くの間、黙って私の説得を聞いていた常磐が、重い口を開いた。

 「でも、仕方ないんだ。さっきから少しずつだけど、明るくなってきてる。今までこんなに光が差し込んで来たことは無かった。きっと、お出迎えが来たんだよ。」

 「違うわ!きっと違う!私は信じない!」

 私は落ち着き払った態度の常磐に苛立ちを覚えながらも、説得を続けた。

 「外に出でも、良いことなんて一個もないわ。私、貴方たちの仲間が何十枚もすし詰めになって、連中に運ばれるのを見たことがあるの!貴方も外に出れば、きっとそうなるわ!」

 「ここだって、賑わってた頃はいつもすし詰めだった。」

 常磐は冷静さを欠かずに、私に返答を続けた。

 「俺が初めてお前の所へ来たとき、ここは二十枚くらい仲間がいて、俺は嬉しかったけど、狭くて苦しくもあった。あれから仲間がどんどん減っていってたけど、俺一人だけが残れたのは、この紙くずの山が俺を隠してくれていたからだ。

 でも、紙くずの山が消えて、光が差し込んで来てるってことは、連中が本気で俺を探してるって事だ。見つかるのは時間の問題だろう。」

 常磐は、既に私と別れることを心に決めたようだった。

 「いやよ・・・!私、常盤君と離れたくない!」

 「・・・それは、お前の本心なのか?」

 常磐の声は、冷静な声から、疑問符を浮かべた冷酷な声に変わった。

 「俺は、俺たちみたいな出入りの激しい奴も、諭吉や野口みたいな長く居座る奴も平等に接するお前が好きだった。

 だからこそ、お前の言っていることが信じられないんだ。」

 「どういうことよ・・・。私は、本当に常盤君に出て行って欲しくなくて・・・。」

 「お前の所にやって来る奴全員に、お前は同じ事を言ってるんじゃ無いのか?」

 常磐の声が、少しずつ荒くなっていく。

 「お前から見れば、俺たちは遅かれ早かれ何処かに行ってしまう。そして、また新しい奴が引っ越してくる。だからお前は、全員に甘い言葉を吐いて、皆に好かれたいだけなんだろ?一途に愛しても、何処かに行ってしまうもんなあ・・・!?

 どうせお前は、俺の代わりに入ってくる奴にも、同じように媚びを売るに決まってる。そんな奴の言葉なんか、信用出来るわけないだろ。」

 「ち、違うよ常盤君・・・。私は・・・。」

 「・・・どうせなら、最後まで他人行儀のままで、笑って見送って欲しかった。八方美人の告白なんて、聞きたくなかったよ。

 じゃあな、今までありがとう。」

 常磐が最後の言葉を言い終わるのとほぼ同時に、連中の手が私の中を弄り、常磐を外へと連れ去っていった。

 

 数分も経たない内に、常磐がいた場所に新たな仲間がやってきた。

 「えっと・・・、若木って言います。宜しくお願いします・・・。」

 若木は、あまり引っ越しには慣れていないのか、ぎこちない様子でアルミ身体を私の身体に預けてきた。

 「あら・・・可愛い。」

 

 

 はい、二作目です。答えは財布と十円玉です。あ、最後の「若木君」は一円玉です。

 気持ちの悪い八方美人ですね財布って(笑)私たちの大切なお金を守ってくれているのですから、感謝はしないといけませんけど。

 では、また次回があったら会いましょう!読んで頂き有り難うございました!