短編№2 ロッカー番号二十番の神様④
手紙を持ち帰った夜、橋本は珍しく勉強机の前に座っていた。
すっかり読み飽きた漫画と表紙すら捲っていない参考書をどかし、机の上を綺麗にして、橋本は例の手紙と、一冊のノートを机に並べた。
まさか、本当に手紙を入れる者が現れるとは・・・。 趣味の悪い悪戯であってほしかった。
橋本はおもむろに地味な青色の大学ノートを手に取った。事の始まりは、一学期の始業式の日、橋本のロッカーにこのノートが入っていたことから始まったのだ。
ノートの表紙には、「二十番ロッカーの神様である君へ」とだけ、小汚い文字で書いてある。
表紙を捲ると、同じく小汚い字で、題名も無く、幾つかの短い文章が箇条書きで書かれていた。
・三年一組、二十番目のロッカーを使う貴方は、神様にならないといけません。
・神様は、人々の願いを聞き入れ、叶えてあげるものです。
・月の初めに、人々は貴方の使うロッカーに願いを手紙にしたため入れます。その中で一番始めに入ったと思われる一枚を選び、その手紙に書かれた願いを、月末までに叶うよう、力を貸してあげなさい。
・尚、願いは叶わなくても問題ありません。何故なら貴方は神様なのですから。
・神様としての仕事をやり遂げたとき、貴方は多くの幸せに満たされることになるでしょう。
最初のページにあったこれらの文章以外は、何も書かれていなかった。
橋本はノートを机に置き、今度は例の手紙を手に取った。
この手紙の内容を見て、俺はどうすれば良いのだろう。”ノート”に従って願いを叶えてあげれば良いのだろうか。それとも中身なんて見ずに、さっさと捨ててしまえば良いのだろうか。
”ノート”はきっと誰かの悪戯だと、そう思っていた。今日、俺は空のままだったロッカーを見て、やっぱり悪戯だったと独りごちてから、家に帰る筈だった。なのに、まるで本当に神様がいるかのように、ロッカーに手紙が入っていたのだ。
橋本は迷っていた。
”ノート”と手紙を捨ててしまえば、妙な責任感を背負わずに済む。そもそも、俺は神様なんかじゃない。ただの、これといった特徴のない高校生だ。
けれど、この手紙には、送り主の願いが、確かに込められているのだろう。ロッカーの神様・・・つまりは橋本に託された願いが。
それに・・・、この”ノート”からは、悪意が感じられないのだ。願いを叶えないと死ぬとか、そういった脅し文句があってもおかしくないのに、願いは叶わなくてもいいとまで書かれている。優しい悪戯もあるものだ。
・・・手紙を見てから決めよう。橋本はそう決心をした。中身を見て、俺でも叶えさせられそうな内容なら、やってあげてもいい。ラブレターなんかが入っていたら、知らん振りをして捨ててしまおう。
橋本は意を決して、手紙の封を開けた。
無機物の声を書いてみた!~三作目~
見覚えのある一人の男が、私の根元に立っていた。いつも連れて歩いている女は、その日はいなかった。
男はいつもより何やらめかし込んでいて、皺一つ無い上等そうなスーツを着ている。時折、右腕に付けたシルバーの時計に目をやっては、きょろきょろと周りを見渡している。
何十年もここに突っ立っていると、流石にこの男が何を考えているのかがよく分かった。男は恐らく、今日、あの女にプロポーズする気なのだ。
いつもなら、そんな男女のむず痒くなるような幸せな瞬間に遭遇しても、私は動じない。これまで何回かその瞬間に立ち会ってきたし、私の根元でプロポーズをした男女が、数年後に私の根元で別れを切り出したこともあった。
だが今回だけは、私も少しばかり緊張を隠せない。なぜなら、私の根元に深く刻まれたひびが、今にも割れてしまいそうだからだ。
ひびが割れれば、私は必ず倒れてしまうだろう。頭にくっついた大きな時計のせいで、倒れたときの衝撃も中々のものになる。それがもし、まさにプロポーズの最中に彼らの方向に倒れることがあれば、私は悔やんでも悔やみきれないだろう。
私に唯一課せられた義務は、倒れないことだった。だがその義務が果たせそうに無い今、私はせめて、彼らの人生を左右するであろう出来事の、邪魔をしないようにしなければなるまい。
男が私の根元に来てから、随分経った。女はまだ来ない。男は時計をちらちら見ながら、まだ根気よく女を待っている。
一方で私の方は、そろそろ限界を迎えようとしていた。ミシミシと私の芯の部分が悲鳴を上げている。私の目標は、彼らの邪魔をしないことから、彼を傷つけること無く倒れる事へと変わっていた。私は彼と反対の方向へ意識を向けた。こうして僅かでも反対方向へ傾けば、彼を傷つけることなく、私は死ぬ。私を目印に彼を探す女には申し訳ないが、これが私が今できる最善の策なのだ。
不意に、私の重心がずれ始めた。待ちくたびれた彼が、私にもたれかかったのだ。よかった。これで彼を傷つけることはない。出来ることはやった。あとは、彼の幸せを願おうではないか!
そして私は、ゆっくりと倒れた。地面に身体がつき、砂煙が舞う。その時だ。倒れた方角の遠くに、見知らぬ男と談笑しながら歩く、あの女を見たのだ。
私は心底、倒れて良かったと思った。何故なら、彼はもう、女を待たなくて済んだのだから。
はい。急に書いたんですが、どうでしょうか?
答えは時計台です。どんな街にもある、待ち合わせに使う時計台。そんな時計台で人を待つ話を書いてみました。
では、また。
短編№2 ロッカー番号二十番の神様③
「橋本ぉ。帰るぞー。」
陸上部の部室から校舎へと戻ろうと歩き出した時、石田から声をかけられた。
「悪い石田。教室に忘れ物したからさ、昇降口で待っててくれる?」
「あー?何忘れたんだよ?」
「んっと、ノートだよ、数学のノート。宿題出てるからさ。」
「・・・じゃあ待ってるから、さっさと戻ってこいよ。」
ワックスで遊びを効かせた短髪を触りながら、石田はぶっきらぼうに言った。口は少々悪いが、石田は良い奴だ。
・・・因みに、本当は数学の宿題なんか出ていない。クラスが違うとはいえ詮索されるとボロが出る嘘を、突っ込んで質問してこない性格も、石田と行動を共にしていて気が楽なところだ。
「じゃあ、行ってくる。」
そう言ってまた歩き出した時、
「・・・おい。」
後ろからまたしても声をかけられた。それも、石田より更にぶっきらぼうに。
「・・・はい、何でしょう松井さん。」
「数学に宿題なんか出てないぞ。」
しまった、と橋本は思った。松井とは同じクラスだから、さっきの嘘は聞かれた瞬間にばれてしまうのだ。けれど、ついさっき女子更衣室に入っていった筈の松井が既に着替え終わって出てくるとは。なんたる早着替え。
松井がその大きな目で見つめてくる・・・と言うより、睨んでくる。人の目を見て話すのが苦手な橋本にとって、こちらが話す前から眼力で威圧してくる松井は苦手な存在だ。正直なところ、怖い。その氷のように冷たくてキツい表情と男勝りで冷淡な性格を和らげれば、きっとモテるだろうに。
「そうだっけ?ま、まぁ、俺は数学苦手だし、テストに向けて予習しとかないと赤点貰っちゃうからね。ちょっと取りに行ってくるわ。」
明らかに挙動不審な事はこの際考えないことにして、橋本は足早に校舎に向かった。
所々塗装が剥がれた白い階段を上り、二階にある三年一組の教室へと向かう。鍵はまだ空いていたが、中には誰もいなかった。
橋本は教室の中に入ると、教室の後ろに縦三列、横一列で並んでいるロッカーに向かった。使い込まれた、飾り気のない灰色のロッカーの中から、二十番と番号が書かれたロッカーを選び、目の前に立った。
三年一組で出席番号二十番の橋本に、学校が貸しているロッカーである。
立て付けの悪い扉を開けると、空にしている筈のロッカーの中に、一枚の手紙が入っていた。可愛らしいピンクの花があしらわれた白い手紙だった。
送り主は女子だろうか。もしかしたら、ラブレターかもしれない。
だとしたら、考え得る事態の中で、最悪のケースだ。
橋本はため息を一つ零してから、素早く手紙をバッグに落とし入れ、教室を後にした。
短編№2 ロッカー番号二十番の神様②
「もう、なんで千秋ちゃんはすぐ喧嘩するかなぁー。程々にしとかないと体育の成績落ちるよー?」
「授業は毎回出てるから大丈夫でしょ。てか、水飲みに行くくらいでキレてんじゃねえよ禿げ山田の野郎。」
待ちに待った昼休み、千秋は購買で買ってきたメロンパンを食べていた。甘ったるくてパサパサしているこの安っぽいメロンパンが、千秋は意外と好みだった。
「ていうかさ・・・、体育の成績危ないのは彩花のほうじゃん。あんた足遅すぎ。」
クラスでダントツのビリでゴールした彩花が、私と大山田の喧嘩を上手く流してくれたのだった。
「うわー千秋ちゃん辛辣っ!心にぐさっと刺さるよその言葉!ううっ!」
目の前で弁当箱の包みを広げていた手を止め、彩花は大げさに自分の胸を押さえた。
細い身体には似合わない、制服の上からでもよく分かる大きな胸が目に付いて、思わず千秋は自分の胸に目を落とした。
・・・なんでこう、人によってこいつは大きさが違うのだろう。でもきっと、私の小さな胸も私に協力してこのサイズに落ち着いてるんだよね・・・。ほら、空気抵抗が少なく済むように・・・。
「私だってね!全力なんだよ!常に自己ベストなんだよー!」
今度は身を乗り出して訴えるように彩花は言った。大きなリアクションのせいで、綺麗な髪の毛がふわりと揺れた。その可愛い女の子を強調する動きに、千秋は思わず自分の髪に手を伸ばす。
ここ何年も髪をショートにしている千秋の髪は、風が吹いても可愛く揺れることはない。・・・大会が終わったら伸ばそうかな・・・。
「ねえー聞いてる?千秋ちゃんっ!」
「ん、うん、ごめんごめん。」
「どうしたら千秋ちゃんみたく速く走れるのかなー?」
「うーん、それは無理でしょ。」
彩花の問いに、千秋はメロンパンを囓りながら上の空のまま即答した。
彩花が何故あんなに足が遅いのか、千秋にも分からない。太っていて身体が重いわけでも無い(むしろクラスの中では痩せているほうだ)し、他に考えられる原因としては、
「本気で走って無いんじゃない?」
としか思い付かない。
不意に、周りの空気が冷ややかなものになった。彩花を見ると、弁当を突いていた箸の動きを止め、俯いている。
また、やってしまった。言い過ぎたか。千秋はうっすらと自分の身体が冷や汗をかいているのを感じていた。注意していても出てしまう私の癖。千秋は本音を隠すのが下手だった。建前やお世辞を作れずに、いつも本音だけで話してしまう。そのせいで、これまで何度も喧嘩をしてきた。
「そーなのかねー・・・。まだまだ私は力を振り絞らなきゃいけんのかー・・・。頑張れ私ぃー。」
緊張し身を固くしていた千秋だったが、彩花が変な言葉遣いで喋りながらぐったりと机にもたれかかったのを見て安堵した。彩花の明るくて優しい性格には、千秋も助けられているのだ。
「でもそれってさ、私にはまだ秘められた力があるって事だよね!」
急に身体をあげ、彩花がテンションを上げて言った。彩花のポジティブに物事を考えられる所が、千秋は素直に羨ましいと思った。
「ま、頑張りなさいよ・・・。」
「そうだ!ロッカーの神様にお願いしてみようかな!」
すっかりテンションが戻った彩花が、聞いたこともない神様の名前を挙げた。
「何その神様・・・。御利益無さそう。」
「あー、さてはロッカーの神様のこと知らないでしょ!折角三年一組になったのに!」
「このクラスと関係あるの?」
千秋が質問すると、彩花は得意げに話し始めた。
「私のお姉ちゃんに聞いた話なんだけどね、三年一組の二十番目のロッカーには神様がいて、月初めの日に願い事を書いた手紙をロッカーに入れると、月末までに神様がその願い事を叶えてくれるんだって!」
初めて聞いた噂話だったが、この学校の卒業生である彩花のお姉さんが言っていることなら、あながち作り話でも無さそうだった。
「でも幾つか決まり事があるの。まず、叶えてくれる願い事は一ヶ月に一つだけ。あと、神様に期待をしないこと。必ずしも願いが叶うわけじゃないみたい。」
「それってただの願掛けじゃない?有名な神社にでも行ってきたほうが良いじゃん。」
「でも結構願いが叶うらしいよ-。お姉ちゃんが言うんだから間違いない!」
彩花はお姉さんをかなり信頼しているようだった。
「・・・でもさ、ロッカーに手紙を入れるんだよね?二十番目のロッカーって、誰か使ってるでしょ。」
出席番号順にロッカーは割り振られている筈だから、三十人いる一組では二十番目のロッカーは空いていない筈だ。
「そう!そこなんだよね問題は!神様が見る前に番号二十番の人に見られたら恥ずかしいよね!」
「それもそうだけど、ロッカーの持ち主からすれば迷惑でしょ。毎月知らない奴から手紙が入ってたら。」
そう言いながら千秋は一組の番号二十番の人物を思い浮かべてみたが、少し考えても出てこないので諦めた。クラス全員の番号を覚えている程、千秋はこのクラスに愛着はない。
「そうかなー?私だったらラブレターが入ってると思ってドキドキするけどねー!夢じゃない?ロッカー開けたらラブレターが入ってるって!」
「実際は足が速くなりますようにっていう願掛けでしょ?中身開けて困惑するだけじゃん。」
「まあ、ものは試しに明日手紙入れてみよーっと!ホントに足が速くなったらラッキーだしね!」
不意に予鈴が鳴って、千秋は余っていたメロンパンを慌てて口に放り込んだ。
そう言えば、今日は月末なのだ。
短編№2 ロッカー番号二十番の神様①
砂煙が舞うトラックの上を、千秋は全速力で走っていた。肺と心臓から聞こえる悲痛な叫びを無視して、スピードを落とさず、白いラインが描くカーブを曲がっていく。
「四分過ぎたぞー!」
ゴール横に仁王立ちする体育教師の大山田から、野太い声で檄が飛ぶ。
・・・わかってるっつーの・・・!うるさい黙れ禿げ山田・・・!
<生徒に聞いた嫌いな教師ナンバーワン>に三年連続輝いた大山田に、千秋は心の中で悪態をつく。今はそんな悪態さえも、乳酸が溜まりきった足を動かす動力となるのだ。
カーブを曲がりきり、最後の直線に入る。タイムを表示している電光板は見ず・・・けれど意識の大半を電光板に向けながら・・・、ゴールラインを通過した。
「四分五十秒!」
大山田がタイムを告げると、グラウンドのあちこちで準備体操をしている男子から、「すげー・・・・」「はやっ・・・」などと言った感嘆の声が聞こえた。
・・・この程度で、驚いてんじゃないわよ。
千秋は男子からの視線を感じながらもそれを無視し、グラウンドの隅にある水道へと歩き出した。
文化部も多い一組の中で、数少ない陸上部員である千秋が出したタイムは、同じクラスの男子と比べても見劣りしない。それどころか千秋よりも遅い男子の方が多いのだ。男子から注目を浴びることは気持ちが悪いものではないが、この程度で満足してはいけない。
今年こそ、全国大会に進む。千秋はそう心に決めて三年生の一学期を迎えていた。去年はあと少しの所で全国への切符を逃してしまった。それだけに、高校最後の今年に賭ける思いは強い。
だが全国に進むためには、このタイムでは物足りない。千秋が持つ千五百メートルでの自己ベストは四分四十二秒。大会で自己ベストを叩き出すのは難しい。だからこそ、地区大会までに少しでも自己ベストを更新していきたいのだ。
蛇口をひっくり返してから水を出し、口に含む。すこし鉄の味がする水道水を飲み込んで、グラウンドの中央へと引き返した。
殆どの女子はゴールし終わっていて、次に走る男子が立ち上がり、スタートライン周辺に集まりだしているところだった。
「おい、松井!」
女子が集まっている所に千秋が加わろうとした時、大山田が千秋の名字を叫んだ。
「・・・何ですか?」
仕方なく、仁王立ちをして腕組みをしている大山田の前に立つ。
「休憩時間以外に水分補給をする時は、俺に声をかけろって言ったろ。」
大山田の声は、既に怒気を含んだものになっていた。
「・・・すいません。」
「いい加減にしろよ!」
千秋の態度が気にくわないのか・・・もはやわざと気にくわない態度を千秋がとっているのだが・・・大山田が怒号をあげた。
「お前は何度言ったら俺に了解をとって水道に向かうんだ!?そんなことも出来ないのか?小学生でも出来るぞ?」
このくだりで大山田に怒られるのは一学期だけで既に三回目になる。大声で怒鳴る大山田とそれを受ける千秋に多くのクラスメイトが視線を送っている。
「ようやくごーるー・・・!」
突然、千秋を睨む大山田の目の前に、両手を広げて妙な決めポーズをしながら女子生徒が走り込んできた。
女子生徒はセミロングの綺麗な黒髪をなびかせながら、どたばたとと大山田の前を通り過ぎた。かと思うと急に足を止め、くるりとこちらに身体の向きを回転させた。
「先生!何分ですか!」
「・・・あ?」
説教の腰を折られた大山田の声は、より一層怒気を含んだ。だが女子生徒は少しも怖じ気づく様子はなく、上がった息を整えながら脳天気な声を上げた。
「私のタイムですよー。タイム言ってくださいよー。一生懸命走ってたから電光板見てないんですよぉ。」
大山田は少しの間黙って女子生徒を睨んだ後、
「八分だ。」
と吐き捨てるように言った。・・・絶対でたらめ言ってるなこの禿げ教師。
「ありがとうございますぅ。あ、そろそろ男子の番じゃないですか?ほら、もうこんな時間ですよ?」
女子生徒が指差す時計台は、四時間目の残り時間があと十分を切ったことを示していた。
「・・・分かってる。・・・おい男子!始めるぞ!」
大山田は千秋の方を怒り足りないとでも言うように一瞥しながらも、スタートラインを示す白線の前に集まる男子の方へと歩いていった。
自費出版を真面目に語る
つい先程、某出版社から打診がありました自費出版のお話を、お断りしました。
担当して頂いた方。私の決断が遅くなってご迷惑をおかけしたこと、非常に反省しております。また、添削、出版に至るまでの説明など、丁寧に対応して頂き感謝をしています。
だが、しかし。
出版にかかる費用については、少し説明に不満を覚えました。
「今まで見たことの無いくらい安い金額で、公言して欲しくない」とは言っておりましたので明確な金額の記載は控えますが、電話で応対する度に金額が少しずつ下がっていくのです。最後に提示された金額は、最初の提示額よりも40万程安くなりました。勿論、契約内容は同じです。
値段を下げてくれることは嬉しいですし、私のために印刷業者と交渉などをしてくださったことは感謝しますが、私が首を縦に振らないと見るや値段を下げる辺りに、出版を持ちかける甘い言葉の裏にある、どうにか契約を取り付けようという考えが見え隠れしていたように思います。
ご存じの方も多いと思いますが、自費出版では著者が出版にかかる費用(広告料などの宣伝費も)を全て払いますので、本が売れなくとも出版社が損をすることはありません。それどころか、出版までにかかる手間賃も費用の中に幾らか入っていますので、契約が成立した時点で出版社には利益が入るのです。
一冊も売れなくても損をしないのに、出版社がどこまで本の売り上げに貢献してくれるのか。少なくとも、出版社が費用を出す商業出版に比べれば、その本気度は低いと思います。
私は、自費出版を頭ごなしに批判したいわけではありませんし、今回話が上がった小説の出来を見て、やはり商品として売るのは難しいと考えてお断りしました。
けれど、私の足元を見ながら値下げをする姿勢と、契約した時点で収益が上がる仕組みが、判子を押す手を止めたことも間違いありません。
今後自費出版を考える方、自分の作品の出来をよく審査し、第三者の目や意見もしっかり聞いた上で、出版社にお金を落とす覚悟で判子を押してください。
・・・真面目な文章は書いてて疲れますね(笑)
近いうちに短編を投稿し始めたいと思います。と言っても書き始めたばっかり何ですが(汗)ちゃっちゃと書きます。
ではまた。
無機物の声を書いてみた!~二作目~
「いやよ常盤君。出て行っちゃいや!」
以前として紙くずの中に埋まっている常磐を、私は懸命に説得していた。
「ずっとここにいてよ常盤君!わざわざ外に出る必要なんか無いわ!」
「・・・俺だって、ここから出たいわけじゃないんだ。」
暫くの間、黙って私の説得を聞いていた常磐が、重い口を開いた。
「でも、仕方ないんだ。さっきから少しずつだけど、明るくなってきてる。今までこんなに光が差し込んで来たことは無かった。きっと、お出迎えが来たんだよ。」
「違うわ!きっと違う!私は信じない!」
私は落ち着き払った態度の常磐に苛立ちを覚えながらも、説得を続けた。
「外に出でも、良いことなんて一個もないわ。私、貴方たちの仲間が何十枚もすし詰めになって、連中に運ばれるのを見たことがあるの!貴方も外に出れば、きっとそうなるわ!」
「ここだって、賑わってた頃はいつもすし詰めだった。」
常磐は冷静さを欠かずに、私に返答を続けた。
「俺が初めてお前の所へ来たとき、ここは二十枚くらい仲間がいて、俺は嬉しかったけど、狭くて苦しくもあった。あれから仲間がどんどん減っていってたけど、俺一人だけが残れたのは、この紙くずの山が俺を隠してくれていたからだ。
でも、紙くずの山が消えて、光が差し込んで来てるってことは、連中が本気で俺を探してるって事だ。見つかるのは時間の問題だろう。」
常磐は、既に私と別れることを心に決めたようだった。
「いやよ・・・!私、常盤君と離れたくない!」
「・・・それは、お前の本心なのか?」
常磐の声は、冷静な声から、疑問符を浮かべた冷酷な声に変わった。
「俺は、俺たちみたいな出入りの激しい奴も、諭吉や野口みたいな長く居座る奴も平等に接するお前が好きだった。
だからこそ、お前の言っていることが信じられないんだ。」
「どういうことよ・・・。私は、本当に常盤君に出て行って欲しくなくて・・・。」
「お前の所にやって来る奴全員に、お前は同じ事を言ってるんじゃ無いのか?」
常磐の声が、少しずつ荒くなっていく。
「お前から見れば、俺たちは遅かれ早かれ何処かに行ってしまう。そして、また新しい奴が引っ越してくる。だからお前は、全員に甘い言葉を吐いて、皆に好かれたいだけなんだろ?一途に愛しても、何処かに行ってしまうもんなあ・・・!?
どうせお前は、俺の代わりに入ってくる奴にも、同じように媚びを売るに決まってる。そんな奴の言葉なんか、信用出来るわけないだろ。」
「ち、違うよ常盤君・・・。私は・・・。」
「・・・どうせなら、最後まで他人行儀のままで、笑って見送って欲しかった。八方美人の告白なんて、聞きたくなかったよ。
じゃあな、今までありがとう。」
常磐が最後の言葉を言い終わるのとほぼ同時に、連中の手が私の中を弄り、常磐を外へと連れ去っていった。
数分も経たない内に、常磐がいた場所に新たな仲間がやってきた。
「えっと・・・、若木って言います。宜しくお願いします・・・。」
若木は、あまり引っ越しには慣れていないのか、ぎこちない様子でアルミ身体を私の身体に預けてきた。
「あら・・・可愛い。」
はい、二作目です。答えは財布と十円玉です。あ、最後の「若木君」は一円玉です。
気持ちの悪い八方美人ですね財布って(笑)私たちの大切なお金を守ってくれているのですから、感謝はしないといけませんけど。
では、また次回があったら会いましょう!読んで頂き有り難うございました!